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ショーケース

この店舗には以前、化粧品店が入っていた。当時使用されていたSUSパイプ製のガラス什器は、フレームを分解・カットしてサイズを調整し、読書用ソファのサイドテーブルとして再利用している。店舗内を本棚で埋め尽くすのではなく、ゆとりを持たせてソファなどを配置することで、訪れる人がしばらく滞在でき、自分のペースで本と向き合えるよう工夫されている。また、化粧品店で使用されていたガラス什器のデザインを踏襲し、同じ太さ(Φ12)のスチールパイプでショーケースを12個製作。海食崖の地層に紛れ込んだ宝石のように、本棚に組み込まれたショーケースには、南伊豆の工芸作家やアーティストの作品が陳列されている。それぞれの作品が持つ独特の風合いや物語が、空間にさらなる深みを与えている。

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古材の再活用

ペンダントライトのランプシェードと小窓にはめ込んだステンドグラスには、町内の建物のガラス戸に使われていた型板ガラスが再利用されている。どちらも南伊豆にあるガラス工房に製作を依頼し、ランプシェードの組み立て作業は、地域の有志の協力のもと行われた。また、店内の板張り壁には近隣の解体現場から出た廃材を再利用している。

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Building Details

​書店TORCH:https://www.instagram.com/torch.minamiizu/

敷地:静岡県賀茂郡南伊豆町
用途:書店
工種:リノベーション
構造:木造2階建
店舗面積:23.35㎡
​バックヤード面積:5.14㎡

施工:あおやぎ工務店
​撮影:小野友香里

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松明型の​シンボル什器

店舗中央の什器は、松明(torch)をイメージしてデザインされ、店のシンボルとなっている。ロの字型に組んだ集成材の天板に、台形に切り出した脚を取り付けた台座を三段積み上げ、その最上部に強化ガラスをはめ込んだ。什器の中心には、伊豆の海で実際に使用されていたガラス製の浮き球を近隣の方から譲り受け、松明の灯に見立てた照明器具として設置した。店の入り口正面に置かれた松明型の什器は、営業時には本の平置き什器として、イベント時には参加者が囲むメインテーブルとして、夕暮れ時には商店街の通りを照らす灯りとしての役割を果たしている。

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石廊崎の海食崖と本棚

今回の計画では、商店街の一角に位置する築数十年の空き店舗をリノベーションした。現地調査で最も印象に残ったのは、TORCHの名前の由来ともなっている灯台が立つ石廊崎の地理的特性である。そこには急峻な断崖や洞窟、奇岩が点在する神秘的な自然の風景が広がっていた。伊豆半島はかつてプレート運動によって日本列島に衝突・隆起した太平洋の海底火山であったため、石廊崎エリアには溶岩が堆積して形成された火山地形と、波の侵食による海食崖の特徴が併存する、地質学的にも珍しい断崖海岸が見られる。

書店の本棚を設計するにあたり、石廊崎のこうした特徴的な風景を着想源とした。集成材を用いて凹凸のある形状の本箱を複数製作し、それらをあえて隙間をつくるようにずらしながら積み上げた。この工夫により小さな余白が多く生まれ、本や小物、ポップなどをあらゆる場所に自由に陳列できると同時に、店舗全体に心地よさを感じさせるランダムな視覚的リズムが生まれている。また、建物の老朽化による将来的な移転を見据え、小さな本箱のユニットごとに分解・運搬が容易にできることも、今回の計画に適している。本箱のユニットは町内の工場で製作され、塗装や積み上げ作業は大工の指導のもと、町内および各地から集まった有志によって行われた。

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書店TORCH

No.007
Shizuoka, Japan
Project: 2023

書店TORCHは静岡県の南伊豆町にオープンしたインディペンデント書店で、店主がセレクトした読み物(物語やエッセイ、人文書など)を中心とした本の他に、地域に住むさまざまな職業・年代の方々の推薦図書、地域で活動する工芸作家やアーティストの作品を展示・販売している。購入した本を店内のソファに座って読むこともでき、滞在型のサードプレイスとしても機能している。書店内は時折イベントスペースとしても活用され、南伊豆の農家や漁師、地域おこし協力隊といった多様な人々の活動を紹介するトークイベントを開催するなど、地域社会の交流の場としての役割も果たしている。

TORCHという名前は、伊豆半島最南端の岬である石廊崎に立つ「石廊崎灯台」から着想している。「灯台は行く路を照らす光でもあり、いま居る場所を示す目印でもある。この書店が南伊豆に来てくれる人、南伊豆から出発する人にとっての灯りのようになれたら」という店主の願いが込められている。

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